北アイルランド問題小史     〜憎しみを超えて〜      NIYONIYO
                                             文責 会田正宣

 このコーナーでは、北アイルランド問題について、もう少し詳しくご説明します。問題の歴史を知る、ささやかなきっかけにしていただければ幸いです。

■17〜19世紀(イギリスのアイルランド植民地化)

 17世紀、イギリスがアイルランドの支配を始める。名誉革命で知られるクロムウェルがアイルランドに遠征し、次いで、名誉革命で王位についたウィリアム3世が、カトリックのフランス・アイルランド連合軍を破り、アイルランド支配を確立する。ウィリアム公がオレンジ公と名乗っていたことから、プロテスタントは「オレンジメン」を呼称する。この植民地化の中で、イギリスはアイルランド人から土地を取り上げ、プロテスタントに配分するなど抑圧政策をとり、アイルランドは穀物、あるいは牧畜など、イギリス本国を支える原料輸出基地として利用されるようになった。この間、アイルランド人にとって、じゃがいもが主要な食糧になるが、1840年代後半、不作に強いじゃがいもが大飢饉に襲われ、100万人ほどが餓死。このとき、アメリカへ大勢が移民し、アメリカのアイリッシュのもととなる。

■20世紀初め(北アイルランド成立、テロリズムの活発化)

 近代になり、アイルランド人の中から民族・国家の自治、独立運動が起こり、ナショナリズムが勃興する。最も重要なターニングポイントは1913年。前年に、アイルランドに一定の自治を認める第3次自治法案が提出され、政治情勢の中で法案が成立される見込みになっていた。これに、プロテスタントの過激思想者が危機感を強め、13年にアルスター義勇軍UVFを設立。スペシャルズと言われたアルスター特別警察などとともに、カトリック系住民への武力行使が活発になる。一方、ナショナリスト側のアイルランド共和軍IRAも、この時期に原型が定まる。自治法案は14年に成立したが、第一次大戦の影響も受け、同時に施行が停止される。21年、条約でアイルランド独立(憲法を制定し、現在のアイルランド共和国となるのは49年)。アルスター9州のうちプロテスタントの多い6州がイギリスに残り、北アイルランドが成立する。
 世界的に、民族自決、植民地からの独立運動が活発化していた時代を背景に、社会主義思想の影響も大きく、IRAも民族の独立と社会主義思想がバックボーンになっているとの解釈がある。

■第二次大戦後(テロリズムの最盛期)

 この間もテロ合戦が繰り広げられてきたが、いったん1962年、IRAが闘争終結を宣言する。選挙の結果などを受け、民衆の支持が多少離れたことが原因。オニールによる当時のプロテスタント政権がアイルランド本国、カトリックとの宥和政策を進めていた時期でもある。
 しかし、69年、また決定的な暴動が発生する。ちょうど、ウィリアム3世の勝利を祝うプロテスタントのフェスティバル「オレンジデー」の300年の節目で、プロテスタントが大掛かりなイベントを企画。これに脅威を感じるカトリックとの間で、両者の暴動が起きた。これを機に、再びIRAのテロが活発になる。この年、ベルファスト市内に、カトリック居住地とプロテスタント居住地を分ける鉄条網の壁「平和ライン」が建設される。
 この少し前から、公民権運動が活発になり、一定の成果を納めるが、情勢の悪化とともに徐々に武力闘争へ傾斜していく。そして、72年、公民権協会のデモに、イギリス軍が発砲し、13人が死ぬ「血の日曜日」事件が発生。これを契機に、イギリスが北アイルランドの直接統治を開始したことにより、イギリスとIRAの衝突が激化する。前後して、刑務所に収監されたIRAメンバーがハンガーストライキを行うなどした。72年は一年間で450人以上が死亡。69年からの約30年間で、テロによる犠牲者は3000人を超えた。

■1990年代(和平への道)

 泥沼化していた紛争に対し、平和を求める民衆の嫌悪感もあり、ようやく和平への動きが芽生える。イギリスが92年、プロテスタント過激組織UDA(UVFと双璧をなすテロ組織)を非合法化。93年、和平に関して、イギリス・アイルランドが共同宣言。IRAの武装停止を前提に、IRAの政治組織「シン・フェイン党」も加わる話し合いの場を設けることなどが盛り込まれ。IRAも94年、停戦宣言を発表。98年、包括和平合意に至り、@北アイルランド地方議会の新設A北アイルランド自治政府とアイルランド政府の代表者からなら南北閣僚評議会新設−などの枠組みが示された。IRAから内部分裂した過激派グループによるテロが起きたり、IRAが武装解除を拒否する場面などもあり、和平プロセスが危ぶまれながらも、2001年9月の米国同時多発テロ事件で、米国内のテロに対する見方が厳しくなり、IRAを支持してきたアイルランド系米国人もテロへの姿勢を変化させたことから、10月、IRAが武装解除を始めたと表明した。

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北アイルランド問題について、推薦図書
・「北アイルランド紛争の歴史」  堀越智    論創社
・「IRA アイルランド共和軍」   鈴木良平   彩流社