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夏休みも終わりに近づき、蝉の鳴き声が虫の音に代わる頃、その声が連れてくる一つの思い出がある。私は秋口の生まれ。必ず思い出す。そして、また新しい一年が始まるように思うのだ。 高校二年の時だった。組替えで仲の良かった友達と別のクラスになり、表面的には上手く取り繕いながらやっていたつもりだったが、夏休み終了間近に、自分の中で張り詰めていたものがぷつんと切れてしまった。 担任の先生との面談が始まった。「友達とも離れ、勉強も身が入らない、とにかく毎日がつまらない」と、言葉と涙が次から次へと溢れてきた。一通り、黙って聞いていた先生は一言、「来るだけでいい。毎日顔さえ見せてくれればいいから、卒業証書だけは持っていきなさい」 「あの人はできるのにどうして私はできないんだろう」。楽しそうに高校生活を送っている人たちを見ながら、いつも惨めな気持ちになっていた。「来るだけでいい」の一言が、心に沁み、一筋の光が見えた気がした。 |
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その後、先生と何度か話せる機会があった。真面目で、どちらかというと「堅物」という感じの先生が、中学、高校とつまらなかったことや、大学時代はロングヘアーでフォークギターをかき鳴らしていた…。「先生」ではなく、一人の人間として話してくれたと思う。 私の話もいろいろ聞いてくれた。大学で勉強して、将来はカウンセラーになりたいと、何度も話した。自分の思いを言葉にして自分の耳で聞くことで、いつしか、その思いが現実になるような気もした。その実現に向かって努力しなければという新たな決意も湧き上がってきた。 |
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程彦平 |
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また新しい友達もできて毎日が楽しくなり、友達と夢を語り合えるようになった頃、先生は他の高校へ転任された。私は無事、卒業証書をいただいた。 もし、あの時、「わがまま言ってないで我慢しなさい」「頑張って学校に来なさい」と言われていたら、今の私はなかったように思う。一端受け止めてもらえたおかげで、周りのせいにして、自分自身で努力していなかったことに気付いた。自分自身がどう動いていくべきなのか、それをまず考えなければいけないことも分かったように… それ以前、中学三年の時に不登校になった経験がある。そのときの私に残されていた手段が、「自分の思いを話す」ということだった。明日生きるために話をする、未来の私のために話していた。 人と話すのは好きだ。生きる手段の一つだったことが私の一番好きなことになった。分かってもらえた時はうれしい。相手が何をどう思い、どう感じているのか、そう思うまでに一体どんな過程を経てきたのか?背景を聞くのが好きだ。言葉の中にその人の人生が隠れていると思う。相手のことも分かりたいと思う。すべてを分かるのは無理だが、思いの一端だけでも共有できたらと思う。そんな会話をしていて、自分の中から出てきた言葉に自分でも驚くことがある。話をしてその人を知ると同時に、自分のことも知っていく。「話の醍醐味」だ。 家庭の中での会話の時間の少なさが、子どもたちがキレる原因の一つと言われているのを、よく耳にする。話をしなければ、家族がどう思っているのか、自分の中から湧き上がってくるものをどう表現したらいいのか分からなくなる。自分の中の黒いものが日増しに大きくなってくる。悪循環だ。「単語」が飛び交うだけでは心には届かず、キャッチし合える「雰囲気」が大切なのかもしれない。 人と人とのつながりから得られる暖かさは何物にも換え難く、生きる希望を与えてくれる。いつか自分も、そのうれしさを誰かに与えられるようになったら、もう一度先生に会いに行こう。 |
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| トップに戻る | 【吉柴美奈子】 巳年の天秤座。趣味は読書・音楽鑑賞・演劇鑑賞。何でも読むよう、聴くよう、観るよう、心がけている。書く、話す、表現方法は問わずに、幅広い意見を聞けるよう日々研磨中。好きな言葉は『順風満帆』。『一事が万事』『塞翁が馬』。 |
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