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鬼剣舞(おにけんばい)の夜に
                                               (会田正宣)
おにけんばいの写真です

 目の前で踊っている「鬼」は女性だった。

 夏、岩手県北上市のみちのく芸能祭で、鬼剣舞(おにけんばい)を見る機会に恵まれた。鬼剣舞は、先祖の霊に祈りを捧げる念仏踊の一つ。祖を修験道の役の行者に求め、蝦夷の豪族・安部貞任が愛し、凱旋踊りとしても踊られるようになったなどの言い伝えがあるという。奈良時代にたびたび朝廷軍を破り、恐れられた蝦夷のアテルイの土地に、脈々と受け継がれてきたのが、鬼剣舞である。

 歌人馬場あき子さんは労作「鬼の研究」(ちくま文庫)で、鬼を分類している。祖霊や地霊的なもの、山人による修験道・山伏系のもの、邪鬼や夜叉などの仏教系…。加えて、馬場さんは、社会からの放逐者、賤民などが人生体験を経て、怨恨や怒り、屈辱感といった情念の果てに鬼となったものに強い関心を注いでいる。

 とりわけ、鬼として生きざるを得なかった女性、鬼となることを選択した女性の姿を、高い比重でものしている。「三従の美徳」の社会に生き難かった女性たち。民俗学者の谷川健一氏は、馬場さんの著作への解説で、そうした鬼の姿を「有情の極み」と表現した。

 「生き難い」ものたちがさまざまな形で抱いた怨念や嫉妬、「生きやすい」体制を得、そこに身を寄せたものたちが、「生き難い」ものたちに対して抱いた怖れ…。その断面に立ち現れた現象が、鬼であるのか。

おにけんばいの群舞の写真です
  平安の貴族社会に、跋扈する魑魅魍魎の調伏を行った陰陽師・安部晴明が主人公の、漫画「陰陽師」(岡野玲子 原作・夢枕獏)がブームだ。

 「鬼」で最近、気になっていたことがある。神戸市須磨区で起きた児童殺害事件の被疑者の少年が名乗った「酒鬼薔薇聖斗」。偶然かも知れないが、鬼として生きざるを得ないと追い詰められた少年の暗い衝動を象徴していたかのように感じ、「鬼」の文字が頭にこびりついている。

扇子を手に踊る鬼たちの写真です  いにしえの鬼を哀れに感じるのは、深い業とでも言うべきものに対する祈りを、どこかで感じ取るからだという気がしている。神のいない現代のこの国で、鬼は何に対して祈るのだろうか…。

トップに戻る 【会田正宣】 学生時代、環境問題を研究するサークル「なちゅれ」を主宰。楽器や空手など四方八方手を出すが、身につかないことばかり。気の多いB型。今は中国語に取り組む。アイルランドのロックグループ「U2」ファン。仙台在住の記者。横浜出身。








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