NIYONIYO
ます  ♪♪給食五重奏曲
高橋理麻

 ♪シューベルト(17971828)のピアノ五重奏曲イ長調「ます」が流れると、私はなぜか給食を思い出してしまう。いつ、どんな時でも、この名曲を聴くと、コッペパン、牛乳、大好きだったクリームシチューが頭をよぎる。

 小学校時代、放送委員だった私は、午前中の授業が終わると、お昼の校内放送のため、急いで放送室に向かった。そして、最初に「ます」を流し、「給食の時間になりました。手を洗い、うがいをし、給食の準備をはじめましょう」とアナウンス。毎日、「ます」からお昼が始まった。

ますのイラストです。飛田裕子作

イラスト 飛田裕子

 「ます」ピアノ五重奏曲イ長調(作品114)は、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チエロ、コントラバスで奏でられる室内楽曲として作曲された。全5楽章で、一貫して広がりを持った、豊かで伸びやかな感性に溢れている。

 第1楽章:アレグロ・ヴィヴァ−チエはたゆみなく流れる水を描いている。第2楽章:アンダンテは、静と動。第3楽章:スケルツオ(プレスト)は、弾むようなテンポで奏でられる。そして第4楽章:アンダンテイーノ。誰もが必ず耳にしたことのある、あの旋律が流れる。ピアノの動きが、水に跳ねる「ます」を生き生きと表している。第5楽章:アレグロ・ジェストは情緒に溢れる美しさで締めくくられる。

 1797年、ウイーンに生を受けたシューベルトは、教師の父の14人のうち12番目の子供として貧しい幼少期を過ごす。10才の時すでに、地元教会の聖歌隊リーダーとして活躍し、作曲も行うなど、音楽的才能を発揮していった。父の助手で教員となるが、19歳で音楽活動に専念するため教師を辞め、作曲をしながら、音楽家、詩人達と交流を深めた。生活は苦しかったが、誠実な性格から、友人に恵まれ、さまざまな支援を受けていた。1819年夏、友人のオペラ歌手の故郷で過ごし、美しい自然の中で、仲間達と演奏を楽しんだ。その心穏やかな時期に作曲に取りかかったのが、「ます」のメロデイを主題としたピアノ五重奏曲だ。

 その後、借金、病気と恵まれない人生を送り、生前は認められず、31才の若さで悲劇的な死を遂げたシューベルト。「ます」は、シューベルトが持ち得た、短くはかない幸福な時代のよすがかも知れない。

*『ます』ドイツリート訳* シューベルトは600ほどの歌曲を作曲した。叙情的な音楽と言葉を融合させ、リートを芸術として高めた。

*清き流れに 矢よりもはやく ますは泳ぐ 

私は 夢見ごこちで見ていた 澄んだ川に ますは泳ぐ

*竿をかついだ漁師 岸辺に立ち ますを釣ろうとしている

 私は 水が澄んでいる限り ますは釣れないと思った

*漁師は 流れを濁らせた     するとたちまち ますは釣られてしまった

 私はそれを見て 心が痛んだ
             
詩:ダニエル.シューバルト

 

 音楽にはいろいろな機能がある。喜び、悲しみ、愛、苦悩、リラクゼーション…。そんな感情とともに、自分の空間や時間をも形づくっていく共演者であったりする。

 大人?になった今、休日の午後ゆっくり、リラックスしながら「ます」を聴くことがしばしばある。美しいメロデイーを聴くと、豊かな気持ちでいっぱいになる。学童農園で自分たちが育てたさつまいもを給食で食べたときの、満足感と秋の味覚…。年に一回行われた、好きな食べ物のアンケート調査を参考にして、スペシャルメニューが出てきた。そんな小学校の給食を思い出しつつ、「ます」が流れていく。


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【高橋理麻】

 ピアノ、声楽などに親しみ、大学では音楽文化学を専攻。人との出会いが楽しみ。ネパールの旅行が楽しかった。秋田県由利郡出身。