感覚ミュージアム・レポート

光と影の砂場で

NIYONIYO

(粟野ユミト)

 今年、不思議な夏の一日を過ごした。光と影の砂場で遊びながら、ゆっくりと時間をさかのぼり、夏至の日の子どものころにたどりつくような…。宮城県岩出山町に八月、オープンした「感覚ミュージアム」の一角「アースガーデン」にある、白砂に影の映像が映し出される作品「Shadow Rays」を体験したときのことだ。作者の建築家・奥村理絵氏、音響担当の作曲家・一ノ瀬響氏とともに、ミュージアムを訪れる機会があった。

 感覚ミュージアムは、訪れた人が五感で感じ取る体験型ミュージアム。展示室は、動的イメージの「ダイアローグ・ゾーン(身体感覚による対話空間)」と、静的イメージの「モノローグ・ゾーン(瞑想空間)」で構成される。巨大な歯車の輪の中に寝転んで手足でペダルをこぐと、チョークが軌跡を描く「サークル・ン・サークル」から始まるダイアローグ・ゾーンを抜け、地元の小学生たちが制作に参加した紙縒りアートの「香りの森」や、お風呂のような「ハートドーム」などがあるモノローグ・ゾーンへ。その奥まったところがアースガーデンだ。

 「Shadow Rays」。変化しつづける光が投影された砂の中に遊ぶことで、時間の流れを空間的に体験する作品だ。

奥村理絵さんのShadow Raysの写真です
「Shadow Rays」 奥村理絵
 投影されている光は、「架空の構造体」のつくる様々な影の三次元コンピューター・グラフィックス。1年間のうち、季節の陽光を最も特徴的にあらわす春分、夏至、秋分、冬至の日の、午前8時から午後4時までの太陽の位置の変化を算出し、影のできかたを高速でシミュレートしている。

 「時間と空間なんて哲学的なテーマや複雑なコンセプトは苦手」という人でも、実際、砂場に立ってみれば、穏やかな光の織りなす不思議な模様に思わずひきこまれてしまうだろう。砂の感触を味わいながら自由に歩き回るうちに、日頃休ませている感覚が目覚め、気づかないうちに瞑想体験へといざなわれる。そんな場所だ。

 砂場に入ったときはすでに映像が映し出されていて、今がどの季節の何時ごろなのか、とっさにはわからない。けれど、時間なんてそんなふうに始まる。あなたが生まれた瞬間もこんなふうに陽光に出会い、生涯というひとくくりの時間が始まったのだ。

影ふみの写真です

影ふみ

 砂場に入って、うっすらと色づいた砂を蹴って歩くと、砂漠の風紋のように地面の凹凸は変化し続ける。そこを、絶え間なく色づいた光となった影がなめていく。かすかな音の連なりがだんだんよく聞こえるようになり、「光にも音にも、あるサイクルがあるのだ」ということを考えながら、果てしなくぼんやりしていく。うっかりすると、そのまま眠ってしまいそうなまでに感覚がほどけてきたころ、「リーン」と音がして、映像が碁盤の目のようにそろってぴたっと止まった。

 1年で最も太陽が高く昇り、「架空の構造体」の平面投影が影に重なる夏至の昼だ。

 はっと目が覚めた瞬間、また光はうつろい、時間がさらさらと流れ始め、なつかしさのような気配につつまれる。どのくらい時間がたったのか見当もつかない。

 3年分くらいアースガーデンで過ごした後、外の回廊に出ると、夏の夕刻の日差しを集めたプリズムが、池に虹色の影を落としていた。

 今は冬の岩出山町。たとえば、世紀の変わり目は特別な出来事なのか、いつものように春を待つ冬の暦の目盛りに過ぎないのか。その決定は個人的な感覚にゆだねられている。本来、自然と向き合い、自然を読みながら生活してきた私達もまた自然。感覚ミュージアムの体験はそのことを思い出させてくれる。

感覚ミュージアムの作品から
サークル・ン・サークルの写真です  

 

町民ギャラリーの引き出しの写真です

<町民ギャラリー>

<サークル・ン・サークル>

 癒し系の音楽と不思議な香りに迎えられて入場すると、右手側の局面壁にある。巨大な歯車の輪の中で寝転んで手足でペダルをこぐと、回転方向の組み合わせでアームの上下左右の動きがコントロールされ、アームの先のチョークがぎこちない軌跡を描く。様々な色の線は幾重にも重なり、偶然の、二度と再現できない絵になってここにある。これからもどんどん、誰かの痕跡が積み重なっていくのだろう。知らない誰かと大きな物語の織物を編むように。(大人も照れずにやってみるのがオススメ。ただ、スカートの女性にはオススメできません。結構夢中になっちゃうからね)

 創作楽器コーナーの奥にある、引き出しの部屋。シールが貼ってある引出しには作品がそっと置かれていて、見た人が感想を書いた紙がはいっているところもある。直接の出会いはなくても、何かを表現したいと思っている心に、「見ていてくれる人がいる」と伝わるだけでも大きなエネルギーになる。引出しは

1000個あって、町民に限らず誰でも利用できる。空の引出しの中の申し込み用紙に記入し、受付に提出したら、早速、引き出しに作品を入れよう。この引出しを出会いの場として、多くの知らない人同士のコミュニケーションが始まる、なんて素敵だ。
感覚ミュージアムのページ
奥村理絵さんのページ

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美術家。その前は商業建築室内設計家。その間は色彩知覚研究家。知覚の閾の微細さを日々妄想し、東京で地味に在住。

【によによ探検隊から】

 「久々に質の良いものを見た」というのが率直な感想。仙台市やその近郊には、美術館、博物館などの施設が少ないからそう思うのかもしれないが…。とても心が満たされた感覚を持った。視覚、聴覚、触覚、嗅覚を刺激する様々な作品は、どれも心の奥底まで伝わるものばかりだった。

 かまくらの形をしたドームの中に入ると、お湯の入っていない楕円形の浴槽?がある。そこに寝転んで、天井に映し出された水面の映像を見ていると、あたかも温泉に入っているかのような感覚になる。しばらく寝ていると微かな音が出ているのに気づく。この音を聴いていると、「母のお腹にいたころ、こんな感じだったのかもしれない」と思ってくる。そうすると、先ほどよりも心地よい感覚でいっぱいになる。

 夢か現実か分からない感覚。だけど一貫して、穏やかな安らぎを感じる作品たち。実際に見て、触れ、感じることで、私の心の深いところに温かいものが残った。理屈ではとらえられない、しかし心がとらえている何か。感じ方は人それぞれ違うもの。みなさんも自分なりの感覚をとらえに、足を運んで見てはいかが?

(高橋理麻)

 「Shadow Rays」は、何だか、とても気持ち良くて、子どもに戻るような気がしました。子どものころ、雲が通り過ぎて行くと、自分のいる地面が影になったり、影が動いていくのを追っかけたり。作品を見ていて、風の谷のナウシカのようにメ-べに乗って、草原の上を飛んでいるような感じでした。                             (会田正宣)