NIYONIYO  ベトナムの風に吹かれて

インタビューを終えて

 ベトナムに縁のある写真家の方のインタビューをすると聞いて、思ったのはベトナム戦争、枯葉剤。ちょうどその時、南米のコロンビアでコカの栽培を阻止する対策として、上空から枯葉剤を散布する資金を、米国が援助しているという記事を読んでいた。まだ枯葉剤に懲りていないのか、ベトナムでの教訓は活かされることはないのかと、憤りの気持ちが渦巻いていた。きっと関係することも聞けるだろうと、インタビューに参加させていただいた。
 猪狩さんにお会いして、その写真家としての活動、生い立ち、ご両親のことを聞くうちに、先に抱いていた気持ちは収束し、同時にその世界へ引き込まれていった。
 猪狩さんを語る言葉として欠くことができないのは、ベトナム、風、心象風景であり、ベトナムで過ごす時間を何よりも大切にしていて、その時々に心に映る情景を写しとっているように思える。幼少時にベトナムで過ごした記憶、少年時代にご両親から聞いたベトナムの話、成長して抱いた、ベトナムへ行ってみたいという憧れ、を思い出させたり、その片鱗を感じさせたりする何かを写しとっているような気がする。ご本人は、心に湧きおこる感動を表現する手段が写真とおっしゃっているが、その感動には、ルーツであるベトナムという要素が大きく作用していると感じた。ベトナムの風景や人を撮るということが重要なのではなく、ベトナムに行って、その光景を見て感動した自分の心を写し残す、というプロセスをとても大切にしている印象を受けた。
 私がベトナムについて抱いていたイメージが、非常に画一的であるのに対し、猪狩さんの関わり方がとてもしなやかで、情感に溢れたものであることにとても感銘を受けた。
【ちなつ】
環境、戦争、経済など社会全般について興味があるが、非常に移り気なため、悲しいかな深まることがない。趣味ではバリ舞踊、シタール、ごくたまにバリガムランを練習している。

 猪狩さんの写真を見たのは、2006年秋、ベトナム人留学生たちが仙台市で開いたベトナム祭りの会場で、だった。祭りは楽しいながら、ベトナムで今も枯葉剤の被害に苦しむ人々のために収益を寄付するのが目的だった。そこに、プロカメラマンの方がベトナムで撮った写真が展示されるということなので、ベトナムの痛みを写した写真なのかな、と思っていた。
 猪狩さんの写真は、案に相違して、ベトナムのうるわしい地と、そこに生きる人々の喜びが伝わってくるような写真だった。枯葉剤問題の写真も、あったかも知れない。しかし、今、その記憶が定かでない。それほど、美しいベトナムが鮮明だった。着飾った美しさではなく、日常を生きる人々、大地の自然な美しさだ。「ああ、自分はベトナムということを、記号で考えていたんだな」と思った。
 まだよく知らない相手、国、物に対するとき、人は最初、記号から入る。キーワードから入る。それは悪いことでもなく、ある程度当然なことだ。例えば、相手が好きな話題を見つけて、盛り上がりつつ、徐々に打ち解けて、さまざまな話に展開したりするだろう。そのうちに友達になり、無理して語らなくても理解し合い、気持ちが通じたりする。
 猪狩さんとベトナムは、そんな関係を思わせた。インタビューで、猪狩さんの口から「風」という言葉がしきりに出た。今、なるほどと思う。猪狩さんの写真にはベトナムのそよ風が吹き、見る者をさわやかに包んでくれることを。その点、僕が今まで頭の中で、記号だけでイメージしていたベトナムが、僕にとっても肉感を持って現れてくれた。写真とお話が、今までと少し違ったベトナムとの出会いをもたらしてくれた。
 猪狩さんが自分でも初めて、ベトナムを撮ったと思ったというシルクのカーテンの写真。それこそ、ベトナムの微風の写真だと思う。

【会田正宣】
学生時代、環境問題を研究するサークル「なちゅれ」を主宰。楽器や空手など四方八方手を出すが、身につかないことばかり。気の多いB型。今は中国語に取り組む。アイルランドのロックグループ「U2」ファン。記者。横浜出身。

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