NIYONIYO          詩情の軌跡
                           中原中也をめぐる思い          (伊藤由美)

月夜の浜べ
                          中原 中也

 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に、落ちてゐた。

 それを拾つて、役立てようと
 僕は思ったわけでもないが

 なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂に入れた。

 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に落ちてゐた。

 それを拾つて、役立てようと
 僕は思つたわけでもないが
    月に向かつてそれは抛れず
    浪に向かってそれは抛れず
 僕はそれを、袂に入れた。

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 指先に沁み、心に沁みた。 

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 どうしてそれが、捨てられようか?

           「在りし日の歌」より

 ボタンをひとつひとつ、これからも一緒に拾っていきたいです。

鎌田英雄さんの絵 幻月です

幻月

鎌田英雄

 学生のとき、あることで気まずくなってしまった友人から、この手紙が届いた。以来、「詩」がこころをつなぐ特別なものになった。
 詩の直筆はむずかしい。文字から伝わるあたたかさ、繊細さ、心のありよう…が、詩の表現する世界と結びつかなくてはならない。大きさ、太さ、筆記具、紙などによって、同じ詩を写しても全く印象が変わってしまう。同じものはできない。
 いつしか、頭をリセットしたいときには、詩を何度も何度もなぞるのが習慣になった。 ある程度、詩の描き方に納得がいくようになると、その詩に似合う喫茶店でまた描いてみたり、音楽を、絵を探したりするようになった。
 それらが微妙に絡み合い、たくさんの素敵な出逢いを生んだ。そうした出逢いを、私によくもたらしてくれるのは、気が付くと鎌倉だった。となり町ということもあり、暇をみつけては鎌倉を漂っている。
 いつか、書と水墨画で詩集を作りたいと思っている。自分の生において受けた詩情の軌跡を表現してみたい。人に手渡せるのは限られているかも知れないが、「この人にも見てもらいたいな」と思える出逢いをこれからも大切にしたい。

 碧深い森に、ひとり佇む
 木洩れ日がやさしく私をつつむ
 このままいっそ、溶けてしまいたい

 そして風になって
 あなたのもとへ

 蒼く深いみずうみ、小舟を浮かべ
 時のしじまを漂いましょう
 このままいっそ溶けてしまいたい

 せめて雨になって
 あなたのもとへ
                    鎌倉「あじさい寺」(明月院)にて


トップに戻る

感想コーナーへ行く
メールで感想をお寄せいただいた方に、オリジナルデスクトップ壁紙プレゼント!