NIYONIYO 2003年冬号
彼方からの贈り物
堀籠美智子さん
聞き手 鈴木真理子 佐藤きよみ 会田正宣

(ご好意により、堀籠潤さんの作品を掲載させていただきました。本記事に載っているすべての絵は潤さんの作品です)
堀籠潤さんの写真です 会田−亡くなられた潤さんは、いつごろから絵を書き始めたのですか?
「高校を卒業してから描いていたようですが、男の子なので、親に見せるようなこともありませんでした。潤が突然の病気で亡くなって、押し入れを整理していたら、段ボール箱にたくさん絵がありました。額に入れて、せっかくなので誰かに写真を撮っていただこうと、夫の友人のカメラマンの熊谷敬一さんに写真を撮っていただいたら、熊谷さんが画家の標葉千香子さんを紹介してくれました。標葉さんが『この絵はすごいから、個展を開いたらどうですか』と勧めてくださって。熊谷さんの息子さんも音楽をしている方で、絵の前で、自然にライブをしようということになりました。
 潤は1月、インドネシアでなくなりました。エスニックなものが好きで、初めての海外旅行でジャカルタに行きました。兄の友人が、現地の日本料理店で働いており、遊びに行ったのです。行って2日目に亡くなったので、もっと楽しめれば…との思いもありますが、1日目だけでも楽しく過ごしていたようなので…。
 連絡があったとき、『嘘でしょう。ふざけないでよ』という感じでした。私たちがインドネシアで拝んだ潤の顔は安らかでした。現地の人も優しく接してくださって、見守ってくれました。テレマカシ(ありがとうの意味)の一言しか言えませんでした。あと1日で荼毘(だび)にふすということに、どうしようもなく辛くなって、自分たちはホテルに帰ってきてしまいました。今思えば、『どうしてもっとそばにいてあげなかったのか。なんて冷たい親だったのか』と悔やまれます。骨壷は、いかにも潤が好きそうな民族調のものを選びました。
【堀籠美智子さん・潤さん(写真)】
美智子さんは仙台市内の高齢者施設で介護ヘルパーを務める。潤さんは堀籠辰一さん、美智子さんの二男。アイルランドに惹かれ、絵を描き、仏教美術を大学で学ぼうと志すが、入学手続きを取る前の2002年1月、初めての海外旅行で訪れたインドネシアで、突然の心不全のため22歳で急逝。潤さんの絵に魅せられた人々の手で、02年12月に追悼コンサート、03年3月にせんだいメディアテークで個展が開かれた。
※美智子様のお写真は事情により、差し控えさせていただきました。
あの時から時間が経っていません。信じられない、で通すつもりでした。個展の準備であわただしい日々も過ごしましたが、個展が終わってからは、掃除などしている時に、はっきりと『ただいま』という声が聞えたことがありました」

会田−潤さんの絵を見たとき、どんな感想を?
「黙って置いていったんだな、『鶴の恩返しみたい』と思いました。ライブや個展の時は、自分の気持ちも整理しきれていなくて、『なぜ人前に出なければいけないのか』と思いました。孤独で不安でいっぱいでした。でも、人とのつながりができて、潤のために自然に集まってくれる人々に、ありがたさで胸がいっぱいになりました。潤の絵は、人の心を癒すメッセージを出しているのかなと思います。
堀籠潤さんの太陽の絵です
 大切な人を失った悲しみの中で、同じ思いの人に会いたいという気持ちを強く持ちました。大学生の子どもさんを病気で亡くされたお母さんと出会って、『息子はいつも傍にいるというメッセージを感じます』とお話してくださった。自分もそう思っていないと前に進めませんでした。潤が、その方と『友達になってよ』と導いてくれた気がします。
 清川妙さんの『一人でも生きられる』という本にも出会うことができました。辛くて、仕事はおろか、毎日の食事をつくるのも満足にできない状態で、お味噌汁の具を何にしたら良いか、なんてことも思いつきませんでした。知人に『電車にでも乗って見たら』といわれ、日課のように終点から終点まで地下鉄に乗っていました。ただ電車に乗るだけなのに、ものすごいエネルギーを使いました。そんな時、ふと図書館に行って本でも読まなきゃと思って、図書館に行った時、見つけたのが清川さんの本でした。本の中に『自分には秘書がいて、さあ服を着ましょう、出かけましょう、とてきぱきと指示をする』という話があり、最初は『随分裕福なんだなあ』と思ったのですが、その秘書というのが自分自身だということが分かり、目からうろこが落ちた思いでした。『これからは私も秘書を雇います』と清川さんに手紙を書きました。すると、清川さんからお返事をいただき、私のことを本(「人生を楽しむ言葉」−海竜出版社)の中で書きたいとおっしゃって下さいました」
堀籠潤さんの動物の絵です 会田−アイルランドを意識した絵が多いですよね。僕もアイルランド、ケルトには興味がありますが、本当に絵を見た時、鳥や動物などケルト美術のような印象でした。また、とても宗教的、宗教性のある方だったように感じます。
「アイルランドへの思いは相当強かったようで、『アイルランドは神々に一番近い国なんだよ』と話していました。アイルランドで日本語教師になりたいという夢も語っていました。インドネシアから帰ったら、通信教育で『仏教美術』を勉強しても良いかと言っていました。
 潤が子どものころ、私の母、潤の祖母がくも膜下出血で倒れました。潤が大好きなおばあちゃんでしたし、人の命、『元気でいた人が突然こうなってしまうのか?』と、子ども心に思うことがあったようです。感受性の強い子でした。19の時に、四国八十八カ所の巡礼に出て、すべて歩いて回ったようです。バックパッカーですか。その時も色々な方、がんになった人、病気を抱えている人などと出会って、『みんなただ歩いているわけじゃないんだよ。いろいろ辛いことを抱えているんだ』と話していました。アイルランドへの思いは、八十八カ所から帰ってきてからでしたね。旅が好きな子で、坂本竜馬も好きで、竜馬の跡を訪ねて旅をしたこともありましたね。竜馬が土佐藩を脱藩した梼原村まで行ったとき、時間が遅かったので、『先に行くのは危ない。泊まって行きなさい』と声をかけてくれた方がいらっしゃいました。潤がとても慕って、潤が亡くなった後も交流が続いています」
鈴木−色々な物に興味を持っていらして、アンテナが広い、広い深い世界を感じました。
「今、ハーブを育てるってブームになっていますが、その前からハーブを育てて、レモンバームの石けんを作ったりしていました。自然への共感が強かったように思います。
 出かける前に通帳と印鑑を置いていきました。そんなことをする子ではないのに、と不思議でしたが、ロシアのテルミンという楽器に凝っていて、帰ってきたら楽器が届くようになっていたようで、楽器が届きました。残していったのは、その楽器の代金分でした」
佐藤−ワンちゃんのアイルはいつ来たのですか?
「名前はアイルランドから取りました。潤が子どものころ、捨てられた子犬を拾ってきたことがありました。うちでは飼えないから、蔵王の叔母の所に預かってもらい、月に一回ぐらい会いに行っていました。潤は犬が好きでした。緑の犬の絵がありますが、その犬をモデルにしたんだろうと思います。潤が亡くなってから、さびしさもあって、動物病院からアイルをいただきました。神様が潤の代わりにと、アイルにメッセージを送ってきてくれている気がします」
会田−人にとって、思い出の世界って、すごく大切なものだと思います。介護のお仕事でお年寄りと関わっている現場にいらっしゃいますが、お年寄りにとっても、思い出はとても大事な意味を持っていると思います。
「母がくも膜下出血で倒れて、7年間寝たきりの生活になった時、介助に通っていました。お年寄りの介護に、あまり抵抗を感じなかったので、以前は寮でまかないをしていましたが、仕事がなくなった後、『ヘルパーも良いな』と思って、高齢者施設で入浴介護ヘルパーの仕事を始めました。
 潤が亡くなってしばらくは、お年寄りを見ていても、潤と引き比べて、『どうして、この人たちは生きているのか。なぜ若い潤が死ななければならなかったのか』と本気で憎んだこともありました。昨年一年は悲しくて、辛くて、泣くこともできませんでした。今年になって、ようやく自然に涙が出るようになりました。今、お年寄りの手を握っているだけで、『自分は今生かされているんだな』と感じます。心のリハビリをさせていただいたような…。ずっと、そうだったのに、気付かなかったんだなあと思います。潤がそのことを教えてくれたんでしょうね。
堀籠潤さんの鳥の天使の絵です
堀籠潤さんの十字架の絵です  私が介護しているお年寄りには、いろいろな方たちがいらして、昔立派なお仕事をされていた人も多いのですが、みなさん、自分が一番輝いていたときの時間を生きている。痴ほうが入っているので、会話はいろいろと飛びますが、それに合わせて、一人何役にもなって相手をするんです。若いスタッフは『だましていることにならないか』と言うこともありますが、私は『その人のその時代に行って、一緒にその時間を過ごしているんだよ』と答えます。それが、信頼感を持ってもらえるようコミュニケーションすることだと思います。人に寄り添っていけるように、『ポケットをいっぱい持ってほしい』と言います。自分の持っているものを出し切って、ヘルパーの仕事をしてほしい。誰かのために生きられるということは、人間にとって嬉しいことだと思います。潤は、人のためになる事をおしまない人間だったので、私が潤の代りに、残った人生を、少しでも人様のお役に立てるような生き方をさせてほしいと願っています」






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