NIYONIYO 2003年秋号
じっと 待つ…
千田四鳳さん (聞き手 会田正宣 川田まや)
千田四鳳さんの写真です。 ★言葉、文字への愛着
会田−書との出会いから教えてください。
千田 「僕は血友病のため、幼稚園のころからは、外出もままならない生活を送っていました。19歳のとき、ある方に誘われて、習字を月2回ぐらい習うようになりました。その後、血液製剤が開発されて、少しずつ出歩けるようになり、書を始めて2年ぐらい経ったころ、ある展覧会を見に行ったとき、誘われて、20代前半の男8人の『漠』という書のグループに入りました。宮城の書道界に新風を巻き起こしたグループでした。斉藤報恩館、仙台美術館などで、各自が8メートルの壁面を使って、自由に作品を発表するグループ展をしました。5回展まで続きましたね。僕は自分の言葉をたたきつけるという感じで書いていました。
 書の前に、詩を書いていました。誌の仲間を募ってグループをつくり、同人誌を発行していました。8号まで出しましたね。ただ、自分自身はありきたりの言葉しか持っていないと感じ、『詩は合わないな』と思いました。才能がないと(笑)。
【千田四鳳(重彦)さん】
 書家。四鳳社主宰、宮城野書人会、書道芸術院などに所属。仙台市在住。出血をとめる血液中の血液凝固因子が先天的に欠けている血友病患者で、20歳まで在宅中心の生活を送る。19歳のときに書を始め、宮城県内では先駆的な若手の書グループ「漠」に参加。29歳のときに1回目の抽象書の個展を開催。最近では仙台市博物館、せんだいメディアテークで個展を開く。書道芸術院展などで各賞を受ける。血友病友の会の中心メンバーとして医療改善の運動にも長年携わる。
  大正末期に、大河原町出身の尾形亀之助という詩人がいて、彼の人生を追いかけたりしていました。詩は小説よりも人そのものが出る。僕は詩そのものより、人に興味があったと思います。亀之助は一行詩や三行詩を書いていたのですが、行と行の間(ま)、言葉と言葉の間に広がる空間のイメージに惹かれました。書の形式の一つに、明治以降の文章を書く近代詩文書があって、最初のころは近代詩文書の部に作品を発表していました。ずっと、言葉、文字への意識があったと思います」
 会田−千田さんの書は何度か拝見しましたが、迫力を感じます。哲学的な雰囲気もあって。何と書いてあるのか、よく意味は分からなくても、迫ってくるエネルギーを感じるんですね。
千田 「子どものころから、『今何をしたいのか』『どこまでやれるのか』を思いながら、自分で考えなければならなかったので、そのとき、そのときをぶつけていました。書も感じたことを昇華して、自分の言葉を書いています。25、6歳のころ、『さあ 見ろ これがおれだ 野仏だ』という詩を書きましたが、それが基本的な精神だと思います」
川田−そのときの気持ちを出すというのはどのような感じでしょうか?
千田 「作品を書いているときは、自分も知らない間に、動きが凝縮されて出てきますね。僕の作品を見てくれた書家の方から、『形になりきならい魅力や、線や点がうずき、もがいていて、何かを叫んでいく、語りかけたり訴えたりするようなものを強く感じる』と感想をいただいたことがあります。
 僕は体調のよいとき、気持ちが高まっているときは、一度に5、6枚の書を書き上げることがあります。
 それから、いい線を出そうと思って、一本良い線が出たからといって、『出た』と分かるとダメですね。途中で出来たと思うと、とらわれてしまう。一本の線にこだわってしまう。書を書いているときは、無心になっている自分と、無心でない自分と、二人の自分がいます。両方一緒にいます」

会田−他の芸術と比べて、書の特徴、違いは?
千田 「文字、言葉が根底にあるということだと思います。文字をそのまま書いていなくても、自分ではいつも、言葉―思い−を筆の1回性で書いていると思っています。書には線を書くという他にないものを持っている。線によって、文字−言葉−を書くのです。僕は、この線の魅力とともに、言葉への思い入れが強いし、愛着があります。例えば、『生きる』という一つの言葉に、自分が生きてきた色々なことがくっついてしまう。その分、『作品が強過ぎる』とよく言われますが」
川田−ワープロで文書を書いたり、メールを書いたりしていますが、気持ちが伝わらない気がすることがありまして。最近、自分の手で書くことが大切だなと思っていました。
千田 「それは確かに大きな違いがあると思います」
千田四鳳さんの作品「さあ 見ろ これがおれだ 野仏だ」です。
作品「さあ 見ろ これがおれだ 野仏だ」
★人とつながる意識
会田−千田さんは血友病友の会の活動のことも、いろいろな人に粘り強く伝えて、人とつながりながら、医療の改善などに辛抱強く当たってきましたよね。書でも、人とつながろうという思いが底流にあるように感じるんですね。
千田 「生まれたときから20歳ぐらいまで、外出ままならない生活を送っていたので、話し相手もいなかったですよね。最初から相手に分かってもらえるわけがないから、分かってもらおう、つながろうとする意識はとても強かったと思います。人が好き、人恋しいという思い…。人とはどこかつながれる所を探して、つながっていくようにしてきました。人との出会いをとても大切にしてきたつもりです。相手に何かを求めるのではなくて。生き方、考え方を押しつけるのではなく、多くの人と接することで、自分には知り得ない社会の中の色々な世界を知りたいと思っています。また一方で、自分のことも言うので、『千田さんの言葉は人の中に残る』と言われたりしますが。

子どもたちに習字を教える千田さんの写真です。
子どもたちに習字を教える千田四鳳さん
19歳のとき、高校課程の通信教育を受けていて、月に2回のスクーリングに行きました。そのとき、人の中に溶け込むためには、まず『人の話を聞こう』と思いました。例えば、冬はストーブの回りに集まる人の輪の中に入って、人の話を聞いているうちに、会話が出来るようになり、誘われてドライブに行ったり、お酒を飲みに行ったりするようになりました。詩の仲間も、そんな輪の中から生まれたものでした。
 相手の話を聞くことによって、相手が分かってくると、相手にも分かってもらえるようになっていくと思ってます。医療の関係でも同じこと。『何をすれば良いか』『何ができるか』聞く。聞く事によって、人とのつながりが強く出来るんじゃないか。僕にとって、原点は人だと思います」
会田−子どもに習字を教えていますけど、どんな教え方をしているのか興味あります(笑)。
千田 「抽象書を教えているわけではないですが、あえて書の基本と言えば…永字八法と言って、永の字の中に、はね、かど、はらいなど八種の書き方のすべてがあります。だから、それさえ学んでしまえば、後は教えることなんて本当はないのですが(笑)。
 僕は教えるという感じはあまりないんですね。人が変わって行くのを見ているという感じ。見ながら、なるべく、その時々に気付いたことを伝えていくようにしています。子どもたちの書を見ながら、『あれ、今日は字が小さいね』などと、素直な気持ちで子どもと話し始めます。すると、今日あった出来事や悩み事、『こんなことがあったんだ』とか、話が出てくる。そんな会話をするうちに、私が今考えていたことなどが伝わりやすくなったりします。何か決まったことを教えて、『こんなこと習った』というのは小さい事のような気がします。時間をかけているうちに、人の中で、その子の中でどんどん育って行くのが感じられるのは、嬉しいものです。
 とりあえず、書を好きになってもらえれば良い。『私は字が下手だから』といった気持ちを取り除いて、書道の楽しさに触れてもらうこと。そして、人間性を引き出すことだと思います」

会田−千田さん自身が変わったこと、あるいは変わらないことってありますか?
千田 「19歳のとき、人の中に溶け込もうとした時は、大きな変化でしたね。それまで、人と接する機会がほとんどなかったですから。それ以降は、僕自身はあまり変わっていないと思います。じっと、ここにいて、座って待っているという感じです。自分が変わらないというのも大切なことだと思っています。自分のいる場所を『帰心庵』と名づけていますが、僕が変わらないことで、だれか通り過ぎて行った人が、またふらっと立ち寄りたい、戻ってきたいと思ってくれることもある。そんな思いを込めています」
会田−「人とつながろう」という原点の19歳の時が一番大きな変化というと、一番変わっていないことかも知れないなと思いました(笑)。これからは、どんな書を書いて行きたいですか?
せんだいメディアテークでの展示会風景です。
展示会「四鳳の書ふたたび in SMT」
                2001年12月18、19日 せんだいメディアテークで
写真 脇坂巌氏
千田 「書をやっていたことで、自分の世界が広がりました。血友病の活動でも、書の仲間がよく助けてくれました。ある看護婦さんと話していた時、『病気以外に何か別の、共有できる世界があると、その人そのものを応援できる』と言ってくれました。それはその通りで、僕にとって、書は人とつながる大きな入口です。あとどのくらい生きられるか…分かりませんが、創れるものを創れれば良い。自分の中にあるものを出して書ければ良いと思っています。その創り出されたものが、多くの人々の心の中に存在する普遍的で、より本質的なものであれば、なお良いと思っています。私自身でさえ、次の一筆がどんな線になり、余白をつくり、作品となって生まれ出るのか全く分からないのだから、楽しみです」

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【関連データベース】
楽しい書道
 書道や水墨画、篆刻をたしなむ作者が書の世界を楽しく紹介しているサイトです。相互リンクありがとうございました
DAICHI'S CHATTY LEFT-HAND
 左利きに関するさまざまな紹介、交流のできるサイトです。「左利き書法」を提唱している千田四鳳さんの書展レポートがあります。

千田四鳳作品集
                   ことばT−V(右からT、U、V)
                                        (オリジナル作品サイズは各300×200cm)
千田さんの作品「ことばV」です。 千田さんの作品「ことばU」です。 千田さんの作品「ことばT」です。

千田さんの作品「無一物」です。
無一物
(300×90)
千田さんの作品「いぐぞお」です。
いぐぞお (90×120)
千田さんの作品「冬」です。
(13×13)



千田さんの作品「調べ」です。
調べ (24×33)