NIYONIYO
無限と有限の接点
〜見えない星を映すプラネタリウム〜
大平貴之さん (聞き手 会田正宣・粟野ユミト・勝本修三・松井亮介)
会田−まず、プラネタリウムをつくるようになったきっかけを。
「よく分からないというのが正直なところで(笑)。幼稚園の時に、初めてプラネタリウムを見たときは、暗闇の中で『怖い』という印象しかなかったんですが、小学校4年生のときに、文房具屋で夜光塗料を買って、自分の部屋の壁に星座をつくってみました。オリオン座とかね。暗くすると、星座がちゃんと浮かび上がって、感動して星を増やして行きました。家族や友達に見せたりしてね。でも、壁に張ると、星は動かないですよね。季節が変わっても、星が動かないから、動くものを作りたいと思うようになりました。それで、子ども向け雑誌についているような卓上ミニプラネタリウムの組み立てキットをつくってみたけど、光源が明る過ぎて、きれいに映らなかった。レンズで投影するものもチャレンジしたのですが、うまく行かず、生田緑地にある科学館に通って大型プラネタリウムを見せてもらいながら、『悔しいなあ』と思っていました。
【大平貴之(おおひら・たかゆき)さん】
子どものころからプラネタリウムづくりを始め、学生時代にレンズ投影式のアストロライナーを完成。続いて、大手メーカーにエンジニアとして勤務する傍ら、約170万個の星を映すメガスターを製作。1998年のInternational Planetarium Society(国際プラネタリウム協会)ロンドン大会で高い評価を受け、2000年に青山スパイラルで一般初公開、好評を博した。メガスターは移動できる点も特徴で、各地で上映会を開く。日大大学院理工学研究科修了。

 実際にプラネタリウムの1号機をつくったのは、高校一年のときです。文化祭の出し物で、小さなピンホールを開けた投影機で、直径約3メートルのドームに映したんですね。評判が良くて、とても嬉しかったです。翌年、やはり文化祭で2号機をつくりました。前は穴を直接開けていましたが、今度はリスフィルムという透明なフィルムに、製図用のペンで黒い点を書いて、それを投影するもので。高校のときにつくったプラネタリウムは、母校に残されていて、最近まで使われていたようです。
 大学に入って、小学生のときに一度トライして断念したレンズ投影式のプラネタリウムを作りたいと思うようになりました。『素人には絶対無理だ。メーカーが何人ものスタッフを抱えて、ノウハウを持って開発しているものなのだから』と言われましたが、何とかつくりたいと思って。最初の2年間はスタディと開発段階でしたね。学生のうちに作りたいと思って、一年休学もしました。親は「何を言っているの、この子は」と(笑)。それで完成したのが、3万2千個の星のアストロライナー。その後、4万5千個まで改良しました」
勝本−プラネタリウムづくりを教えてくれた人はいたのですか?
「プラネタリウムそのものを教わったわけではないですが、コンピューター制御、電気回りの設計などは、隣にエンジニアの方がいらして、色々教えていただきました。それから、休学中、電源装置メーカーでアルバイトしたのですが、製造現場で学んだことは多かったですね。部品管理、品質保証、プロがどう設計してものをつくるのか。企業は単に機械が動けば良いというわけでなくて、人に売れる製品をつくらなければいけないじゃないですか。プラネタリウムもかなりの部分は機械をつくる作業なので、ものづくりの現場に触れられたのは勉強になりましたね」

会田−もちろん、星が好きだということは前提でしょうが、それなら、例えば、天文学者になりたいなどとは思わなかったのですか?
「星は好きですけど、星だけではなかったです。子供のころ、色々なことに興味があって、水晶を掘りに行ったり、鉱物の放射線も浴びましたね(笑)。本で見るだけではダメで、やらないと気がすまない。学校の理科でも、『本当は実験がありますが、時間がないから飛ばします』みたいに。特に最近は、理科室にあまり入らないと聞き、どうかと思いますが。それはさておき、星に関しては、カール・セーガンのテレビ番組とか、宇宙戦艦ヤマトの影響なども受けたでしょうが、プラネタリウムは、ものづくりと星への関心の接点だと思います。じゃあ、ものづくりと言えば、望遠鏡をつくる人もいるわけで、なぜ自分は望遠鏡づくりには行かなかったのか。しばらく分からなかったのですが。プラネタリウムは自分だけで楽しむのではなく、人に見せる楽しみがある。色々な人に見てもらって、星の解説をしたりと一連の流れがあって、パッと花開く瞬間がある。それが、ずっと続けられてきた理由なのかな」
粟野−プラネタリウムメーカーに就職しようとは思わなかったですか?
「思いませんでしたね。自分で、いわば大平流でつくってきて、コンセプトにも自分の流れがある。既存のメーカーに入ったら、大平らしいプラネタリウムは作れないと思います。メーカーの人と話していて、思いは共通している部分はあるんですが、組織でやることと、個人でやることの違いはあるじゃないですか。自分で『こうしたい』と思っても、できないことがある。『メーカーに行くとできないから』と言うより、むしろ、自分で育ててきた流れなので、自分らしくやりたいという気持ちでしたね」
会田−その結晶としてメガスターがあるのでしょうが、なぜ、170万個もの星を。
「高校のときに、オーストラリアにハレー彗星と南半球の星座を見に行きました。本当に、波打つような天の川で。天の川って、こっちだと淡い光の糸や帯のようなイメージですけど、オーストラリアで見た時は、そんな生やさしいものではなかった。銀河系にいて、横から天の川を見ているような…ものすごい量の星の集まりでした。肉眼で見えない星がたくさんあって、宇宙の存在感、奥行きをつくっているんですよね。それがずっと残っていて、宇宙にある星を、なるべく忠実に再現したいと思いました。今までのプラネタリウムでは、それが表現できていない。普通のプラネタリウムは星が9千個や6千個。肉眼で見える星を表現するには十分というわけで。
メガスターが再現する南半球の星空の写真です。
メガスターが再現する南半球の星空
 それで、実際につくってみると、全然感じ方が違いました。1998年、ロンドンの学会にメガスターを公開して、専門家には評価が高かった。ただ、マニアックというか、プラネタリウムに詳しい専門家には分かっても、一般の人が見て反応がどうか、全く分かりませんでした。でも、2000年に青山スパイラルで一般に初公開したとき、約8000人が来てくれ、アンケートでも評判良くて。見えない星も映すメガスターのコンセプトが伝わった、一般の人にも感じてもらえたと手応えを持ちました」
粟野−一番の違いは何なのでしょう?
「わび、さびではないけれど。ぱっと見ても分からなくて、ないようだけど、何となくあるような感覚。見えないけど、ある、感じるということかな。そうそう、メガスターを見物に来るお客さんの中には、双眼鏡を持ってくる人が結構多いんですよ。メガスターの中で星を双眼鏡で見るのが、隠れた楽しみ方です(笑)」
粟野−星はどうやって作るのですか?
「天文データをコンピューターで処理して、投影レンズにレーザーを当てて、星の点をつけていきます。星の明るさは、レーザーを当てる強さや時間で調整します。自分の部屋の暗室スペース、お仕置き部屋と呼んでますが(笑)、ここでレーザーを当ててます。(直径10センチぐらいの半円形の)レンズは32面に分かれていて、それぞれに数万個の星が刻まれています。全部、コンピューターのプログラムを組んで作業しています。今、メガスターは約350万個の星を映せるよう改良中です。数を増やすということでは、1000万個ぐらいが、行きつく限界ですかね」
メガスターを改良する大平さんの写真です。
メガスターを改良する大平さん
会田−僕が思うに、プラネタリウムって、無限の宇宙を、有限な所で、有限な人間がつくるわけですから、無限と有限の接点と言うのか。科学は自然を解明しようと思って、どんどん進んだわけだけれど、分かることが増えれば増えるほど、分からないことも増えてくる。そんな人間と宇宙のおっかけっこの象徴みたいにも思えるんです。
「有限のプラネタリウムの中で、『これが無限の宇宙です』と言うわけだから、はたから見れば、滑稽、インチキそのものですよね(笑)。ただ、明かりをつければ何でもないドームでも、暗くして、星空を映すと、無限の空間が広がる。トリックだけど、そこがまた痛快というか、面白い。実際、『本当の空を見たほうが良いじゃないか』というのは永遠の問題です。プラネタリウムはシミュレーション、まさにバベルの塔ですよね。
でも、バーチャルな、模倣でありながら、作品でもある。料理にたとえて言うのですが、天然の野生の食物を人間が採って、そのまま食べるのが本物の空だとすると、養殖したものを、シェフが料理して出すのがプラネタリウム。人間の知恵だと思うんです。星を見て、『きれいだな』って思うのは、なぜなのか、不思議ですよね。でも、きれいに感じるように人間はつくられているんだと思う。それを、分かりやすくプレゼンテーションするのがプラネタリウムだと思います」
会田−プラネタリウムという空間の中に、宇宙をつくるわけですよね。その意味では、その宇宙の神様とも言えるわけだけど?
「まさに、天地創造ですよね。箱庭をつくるような面白さはあります。自分で一つの世界を、クリエイティブにつくるわけですから」
会田−円周率のπ(パイ)「3.14…」を、学校で「3」として教えるという話題がありました。その後、必須でなく、現場の判断で「3・14」と教えても良いと、苦し紛れの解釈が出たりしましたが。そのことについて、どう思いますか?
「はしょって教えても良いのかなとは思いますが。学問と現実、生活ということを言うなら、中学でサイン、コサイン、タンジェントを教えるより、応急処置の仕方などを教えた方が、よっぽど役に立つんじゃないですか。
 最近、数学家の方と話す機会があって、円周率の計算の話しを聞きました。スーパーコンピューターで、限りなく計算していくのですが、あれはものすごいロマンですね。まさに無限の探索。日本の法律をいくら勉強しても、それは日本国内でしか通用しないですよね。でも、物理や数学の法則って、地球上どこでも、あるいは火星、宇宙の果てに行っても変わらない。こんなに普遍的なことはない。だから、数学って神との対話だと思うんですね。円周率は神が決めたことであって、それを限りなく計算していく。日常生活で、実際に円周率を使うことなんて、ほとんどないだろうから、πが必要になるかどうか分かりませんが、数学や宇宙って、人間の叡智であったり、スピリッツであるのだと思います。人間しかやらないことですよね。そんなロマンがあるんだという事は、学校で何らかの形で教える必要があると思います」
会田−無数の見えない星を追求しようという大平さんのプラネタリウムにも、共通したものを感じるんですね。
「πの計算とスケールは違って、メガスターは俗っぽいと笑ってしまうんですが(笑)、無限の追求というコンセプトでは重なるかも知れませんね」
粟野−宇宙旅行に行ってみたいと思いませんか?
「行ってみたいですね。僕はロケットにも興味があって、ロケットづくりとかもしてみたいですよ。完成したら、友達に『乗せてあげる』と言っているのですが、みんな『オマエは乗らないのか』と(笑)」
会田−毛利さんがメガスターを見たんですって?感想はどうでした?
「ええ、スペースシャトルから見たときの星空と近いと言って頂きました。リアリティがあると。シャトルからだと、もっと背後の空が暗いけど、とも言ってました」
粟野−光を出すより、闇をつくる方が難しいかもしれませんね。
勝本−子どものころから、一つのことをずっとなさっている事に、すごいなと思ってしまいますが、プラネタリウム制作をやめたいと思ったことはありますか?
「絶対にもうやめてやるって思ったことはないですね。制作中にダラダラと1、2カ月手がつかなくて、他に興味が行ったりすることはありますが」
語る大平貴之さんの写真です。
粟野−さきほど、最終的に1000万個の星というお話がありましたが、そこまで行ったら、次は何を目指すのですか?
「星の数はプラネタリウムの一つの側面です。もちろん、今もメガスターを改良していますが、星空のリアリティというコンセプトはある程度、メガスターでプレゼンテーションできた。あの、誤解ないように言っておきたいのですが、星の数が多いので、メーカーが開発したものより良いなどと言われたりします。でも、星の数と、持ち運びができる移動性という点では優れていますが、何mのドームに映せるかとか、投影する時の音が静かどうかなど、メーカーの方が優れている機能も多いわけで、まだ発展途上です。
 それで、次のテーマは使われ方、コラボレーションですね。音楽や香り、映像などと組み合わせた星空のエンターテイメントということかな。そんな機能にベクトルは移っています。自分はメガスターでとんがったことをしているけど、世の中、いろんな分野で、とんがったことをしている人がいて。例えば、僕は音楽にうとくて、流行りの歌手も知らなかったりしますが、メガスターを通して音のスペシャリストとつながりができたりしている。どういう形か分からないけど、これから、面白いことができるような気はしています」
勝本−エンターテイメント性と言う点をもう少し。
「とにかく、音楽との親和性が強いですね。音と映像の一番の違いって、音は情報量が少ない分、イマジネーションをかき立てる力が圧倒的に強い。たぶん、人間が情報量の少なさを補おうと思って、自分の中でイメージするからだと思うのですが。それとメガスターがはまって、また、音や映像だけでなく、風や香り、五感、あるいは第六感まで刺激するようなことになると、すごいかなと思っています」

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【関連データベース】
大平貴之さんのサイト「Super Real Planetarium」
     約170万個の星を映すプラネタリウム・メガスターを自ら開発した大平貴之さんのサイトです。製作史や国際プラネタリウム協会での発表原稿、天文関係のリンクなどが充実しています!

Astro-Navi
    天文、宇宙に関する幅広い情報を検索できるサイトです。

日本プラネタリウム協会
    日本国内のプラネタリウム館の連携と振興、科学教育への寄与を目的にした、プラネタリウム関係者による国内最大の団体です。

ぷらね館 WEB星座早見盤
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