NIYONIYO ほっと・ねーちゃー
                            雪上の名探偵
                                                              刈田悟史
ノウサギの足跡の写真です
ノウサギの足跡

 冬も深まり、冷たい空気が里をすっぽりと包む頃、コンコンと舞い立つような白雪が天空より降り立ち、野も山も一面の銀白色に染められます。
 木々を飛び交う鳥たちのにぎやかな声…対照的に厚く積もった雪の上には、生き物の息吹は、ほとんど見当たらなくなります。しかし、そんな時ならではの楽しみ方も、 神様はきちんと用意しています。シャーロックホームズのような名探偵気分を味わう事。雪が積もった頃をみはからって、山野へ出てみましょう。

ノウサギの写真です
ノウサギ

 狙うはケモノたちの足跡。普段は山を歩いていても、ケモノたちに出会う事がほとんどないので、 「身近にはいない」と思いがち。でも、ちょっとしっかりした林があれば、ノウサギやタヌキなどは元気に暮らしているもの。恥ずかしがりやの彼らに会うには、とびきりの幸運を期待せねばなりませんが、 彼らの暮らしぶりに迫るのは意外に簡単にできるんです。
 たとえば、畑を横切る一筋の足跡。林の斜面を駆け上がった跡。普段はなかなか見つけられない彼らの足跡も、 雪の上では一目瞭然。「こんなところを歩いてるんだ」と微笑ましい気持ちになります。

 足跡の正体を解き明かすには、市販のガイドブック片手に、灰色の脳細胞をフル回転させる必要がありますが、それがまた推理のようで楽しいもの。「こいつは人の足跡と並んでいるからイヌだな」「むこうのは小さいからイタチかな」「手前のはよくわかんないけどきっとタヌキだ、名探偵のカンがそう言ってる」。 正解なんて重要じゃない、その推理のプロセスが楽しいのです。

ニホンリスのエビフライの写真です
ニホンリスの「エビフライ」

 灰色の脳細胞が解き明かすのは、足跡の持ち主だけではありません。「この足跡はここからぐっと曲がってるぞ」「歩幅が急に広くなったから走ってるな、 何かに驚いたのかな」なんて、勝手に彼らの行動を推理するのも楽しみの一つ。 時には、ノウサギの足跡を追うように並ぶキツネの足跡。両者ともにやぶの中に消えていて、ドキドキしながら覗きこむ、なんてドラマチックな展開もあります。そんなとき、 頭の中では鮮やかな映像が実写フィルムのように流れているでしょう。
 名探偵が活躍するのは雪の日に限りません。湿地の泥には、よくイタチの足跡がありますし、ネズミやリスが木の実をかじった跡を目にする事も多く、特にリスが松ボックリをかじった、通称 「エビフライ」は一見の価値があります。モグラが土を押しのけた跡や、 カヤネズミの球巣なども、目立つ証拠物件です。

カヤネズミの巣の写真です
カヤネズミの球巣

 コツコツ歩きまわって証拠物件を集め、やがていつの日か、 その持ち主にばったり出会った時の感激は、何ものにも替え難いものがあります。「やっぱりいたのか、ずっと探していたんだぞ」「今まで隠れているなんてイジワルじゃないか」。そんな声をかける間もなく、相手はさっと身をひるがえして消えるでしょうが、 こちらは感動のあまり立ち尽すこと、必至です。

 コタツにこもって、冬眠中のクマのような生活をするのも冬のダイゴミですが、なかなか出会えない隣人の無事をそっと確認する楽しみも、また格別なもの。よほど北方でもなければ、ほとんどのケモノは冬眠もせず、冬も元気に走りまわっています。 毎回新しい証拠を見つけ出していくうちに、あなたの視線は、いつかホームズばりに鋭くなっていくでしょう。
 着膨れした体に長靴ひっかけ、白い息を汽車のように撒き散らしながら、雪の里山に出かけて見ませんか?


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 大学在学中、「環境サークルなちゅれ」に在籍したことをきっかけに、自然を見つめる面白さに目覚め、定職にもつかず、生き物の世界をふらふらしている。公園の警備員をやっているほか、ことあるごとに鳥を見たり、魚をおっかけまわしたり年齢不詳の時間を楽しんでいる。