NIYONIYO ひとらいぶらりー

大橋雄守さん 

大橋ゆうじさんの写真です

友人と。左が大橋さん

【大橋雄守】福島県福島市の中小パンメーカー「銀嶺食品工業」常務。近年、8種類の雑穀を使った「穀福」、米と麦を半々にした「ライスキー」など、常識を覆すパンを開発。血友病患者として、国内初の左足切断手術を受ける。地元ラジオでパーソナリティも務めた。1956年、福島市生まれ。妻と長男の3人5脚。

★雑穀はマイナスじゃない

−雑穀、天然酵母をふんだんに使ったパン、シチューなどを盛ることができるお皿パンなど、次々にユニークな商品を開発していますが、その原点は?

 「雑穀でパンを」と思ったのは、やはり僕が障害者だということが大きい。僕は出血を止める凝固因子が先天的に欠ける血友病のため、20歳のころは寝たきりの状態だった。自分の体のことだから、食事療法など健康への関心は強い。同時に、健常者に比べて障害者は劣っている存在と見られがちだが、雑穀はごく最近まで、人々の暮らしを支える大事な食糧だったのに、米に比べて「まずい」「劣ったもの」と粗末にされてしまった。その雑穀の立場と、障害者の自分が重なって見えた。

 生死を見つめた闘病生活の中で、素直に「今日生かされてある命」に感謝できるようになって、障害者であることが欠陥ではなく、病気と共存しながら、自分の個性を最大限生かし、与えられた人生を生きたいと思った。同様に、雑穀もマイナスととらえるのでなく、価値、魅力を引き出したかった。

 リハビリで奇跡的に体を動かせるようになり、実家のパン製造会社に勤め始めたが、会社は過渡期だった。会社は障害者雇用に熱心に取り組んでいたが、「パンがまずい」と言われることがしばしばあった。障害者雇用という美談と、商品の質向上がすりかわっていた面もあっただろう。大手のパンと同じ商品、あるいは質の劣った商品を作っていては生き残れないわけで、中小でもきらりと光る個性を持たなければと考えていたときに、必然的に雑穀と出会い、商品開発に結びついた。

★商品に乗った思い

−経済活動に個人の志や人生観などを反映させていくのは、非常に制約が多いと考えられがちだと思うのですが。

パンの写真です 

 日本のパンは戦後、米国から輸入され、学校給食とともに普及したが、やわらかいふわふわしたパンが当たり前だった。だから、僕が地元福島の国産小麦でパンづくりを考えたときは、「国産小麦はパンをふくらませるグルテンが少ないから、売れるパンにならない。非常識だ」と言われた。しかし、2千年以上の歴史があるヨーロッパの主食のパンは、ライ麦など雑穀を使った硬パンだ。日本で売れているパン、売れるパンって何だろうと疑問が湧いた。命を支える食品が大量生産の工業品のように生産されていることに違和感もあった。食はその風土に合ったものを食べるのが一番いいはずなのに。

 「絶対、雑穀パンを世に問いたい」という思いが強くあった。だから、第一弾の雑穀パン「穀福」を、生活総合雑誌の編集長が試食して、「パワーを感じた。作る人の心が伝わってくるようだった」と言ってくれたとき、「モノに心を乗せることができるのだ」という手応えを感じることができたときは嬉しかった。

 制約といえば、障害者は日常生活で具体的にできないことが少なくない。全部自分でできるのでなく、人の助けを借りなければ生きていけない。仕事は、自分ができること、できないことをはっきりさせる。だからこそ、自分ができない部分は他の人、あるいは他の会社と補い合うこともできる。

−そうした協調、お互いの人と人の出会いによって生み出される仕事が、ニーズとしても発生しているのでしょうか。

 福島県郡山市の日本料理店「正月荘」が、うちの雑穀パンを利用した和風料理を創作した。完全にビジネスとしてだ。郡山は鯉の養殖が盛んだが、鯉も「泥臭い」イメージで敬遠されやすい。正月荘は地元の良さを再発見し、鯉に光を当てたいとの志を持っている。互いに志でつながり、しかも経済という共通の土俵の上で強い信頼関係が築けた。経済活動には制約があるが、制約があるからこそ生み出される可能性もある。

 ただ、単に出会っていればいいということでもない。それぞれ、すべての人が人に出会っているわけだが、そこから何を、どう育てて行くのか。ダイヤの原石はどこにでも転がっているが、磨くのは自分だ。時代が急速に変わっていて、従来の仕事のやり方が通じなくなってきている。対立ではなく、共生の生き方をビジネスに反映し、具体的に表現として問うことができる世の中になりつつあると思う。

(聞き手 会田正宣)

銀嶺食品工業のページ http://www.asaka.ne.jp/~popland/jipan/top.html


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